2019.01.15 Tuesday
中核市移行は「検討の継続」に
いまの富士市政で最大の課題だった中核市議論。小長井市長は移行表明……しませんでした。
賢明な判断だと思います。
臨時記者会見(テキストはこちらに載っています)で移行表明しなかった理由が述べられていますが、これらは数年で解決する問題ではないので「検討の継続」とはいうものの実際は「凍結」、国の制度が変わらない限り当面は一般市(施行時特例市)のままでいくことになりそうです。
会見の内容を3行で書くと、こんな感じです
〇5年先まで財政予測をしたら移行費用の年間7億4300万、これが全額自腹(市の単独負担)になっちゃうことが分かった。
〇この7億円余を他で切り詰めようといっても無理な話だった。
〇なにせ来年度でさえ厳しくて、貯金(財政調整基金)を2億円取り崩して帳尻合わせることになる。
記者会見の内容、少し解説します。
中核市に移行するには(いまは県がやっている)保健所を自前で持つことなどが必須で、そのために市職員を54人(そのうち1人は医師)も増やすので、それらの費用に年間7億4300万円くらいかかります。以下、分かりやすくするために「7億円」とします。
県がやっている事務作業を市が引き継ぐのだから、その分の「7億円」はもらえて良さそうなものですが、県からも国からもお金はもらえません。国は、これを地方交付税によって措置するとしています。
この「地方交付税で措置する」というのがポイントで、富士市が中核市になることが難しい理由の本質ですし、なぜ既存の中核市は「進んで中核市になったのか(なれたのか)」という疑問の回答でもあります。
地方交付税とは(wikipedia)、日本全国には税収がいっぱいあるリッチな都市も、少なくて困ってしまう都市もあるので、ある程度均一にしましょう、という制度です。
この地方交付税の交付額がどうやって決まるかというと、、、(ここからちょっと難しいです…)
[基準財政需要額]という、あなたの市の人口くらいなら、最低でもこのくらいお金かかるよね、というのと、
[基準財政収入額]という、それに必要なお金として、あなたの市はこれだけ税収あったよね、というの、
…の差額で決まります。
具体的に富士市はどうかというと(以下、富士市=旧富士市として書きます。旧富士川町分は別計算になっています)
(富士市:平成29年度普通交付税の決定)
〇昨年度の富士市
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
= 約353億 − 約357億円
= △約4億円(平成30年度)
…4億円分収入の方が上回っている → だから交付金ゼロ円
中核市に移行した場合は、移行費用の年間7億円が[基準財政需要額]に足されます。これが「地方交付税によって措置する」の意味です。
〇もしも昨年度、中核市だった場合の富士市
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
= (約353億 + 約7億円) − 約357億円
= 約3億円
…3億円収入が少ない → 交付税が3億円交付される
…年間7億円の中核市移行費用のうち差額の4億円は自腹
そして、市長の記者会見のうちのこの部分の意味ですが、
財源超過額が11億円というのは、
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
= ○○○億円 − ×××億円
= △11億円
ということを表していて、もし中核市になっても、
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
= (○○○億円 + 7億円) − ×××億円
= △4億円
…4億円分収入の方が上回っている → だから交付金ゼロ円
…7億円の中核市移行費用のうち7億円の全部が自腹
ということです。なぜ11億円の財源超過になるかという説明は難しいのですが、決して富士市が絶好調!というワケではなくて、[基準財政需要額]が人口減少とともに減っていくこと、それに比べて[基準財政収入額]については、富士市の特長である固定資産税の多さ(←工場が多い)はすぐに減っていかないこと、ことし10月の消費増税で市の取り分が増えることなど、様々な要因があります。これは都市の立地等のポテンシャルによるところが大きく、人為的なコントロールが難しいものです。
■■■
ややこしい話になってしまいました…。複雑なのはしょうがないんです。富士市がちょうど、ややこしい位置にいるんです。サッカーJリーグでJ1とJ2を行ったり来たりしているチームを、エレベーター・クラブ(wikipedia)と言いますが、富士市はまさに、交付団体と不交付団体を行き来する(日本に数少ない)エレベーター・シティです。だからこその中核市議論の難しさがありました。
そもそも「中核市」、そしてその費用は「交付税で措置する」という国の制度がおかしいんじゃないかなと感じます。財政力が高い市は中核市になりにくく、財政力が低い市は(全額が交付税で措置されるので)中核市に移行しやすい、という矛盾があるように感じます。
これは日本の市の人口のランキングです。(wikipedia)

富士市と人口で同じ規模の八戸市や佐世保市が中核市になっています。こうした自治体は100億円単位で交付税が入ってきて、中核市移行費用は全額交付される、つまり「持ち出しナシ」で中核市になれるんです。
〇北海道函館市(人口・26万5979人)、財政力指数 0.46、普通交付税 304億円 → 中核市
〇青森県八戸市(人口・23万1257人)、財政力指数 0.66、普通交付税 132億円 → 中核市
〇長崎県佐世保市(人口・25万5439人)、財政力指数 0.51、普通交付税 231億円 → 中核市
〇鳥取県鳥取市(人口・19万3717人)、財政力指数 0.52、普通交付税 209億円 → 中核市
一方で富士市より人口が多い市でも、財政力が高い自治体を中心に一般市のままです。
〇千葉県市川市(人口・48万1732人)、財政力指数1.03、普通交付税0円 → 一般市
〇神奈川県藤沢市(人口・42万3894人)、財政力指数1.07、普通交付税0円 → 一般市
〇東京都府中市(人口・26万9061人)、財政力指数1.19、普通交付税0円 → 一般市
富士市と似ているエレベーター・シティは、つくば市や太田市です。中核市移行を検討しましたがいずれも「検討中断」しています。
〇茨城県つくば市(人口・22万6963人)、財政力指数1.00、普通交付税0円 → 一般市
〇群馬県太田市(人口・21万9807人)、財政力指数1.01、普通交付税11億円 → 一般市
こうしてみると、市の「格」として、「 政令市>中核市>一般市 」というワケでは無いなと思います。別に、胸をはって「一般市」でいれば良いんだと思います。
そもそも既存の中核市・全国54市のうち、52市が交付団体(財政力指数が1倍未満)です。例外の2市は、愛知県の豊田市と岡崎市です。
ちなみに豊田市の決算をみてみると(平成29年度)
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
=653億円 − 1100億円
=△447億円
財政力指数1.68。ちょっとレベルが違い過ぎて富士市と比べてもしょうがないんですが、このくらい飛び抜けてリッチだと、保健所運営に数十億円かかっても余裕で捻出できます。
富士市は豊田市ほどの財政にはなれず、数億円のレベルで財政力指数1.0倍近辺をうろうろする時代が今後も続くと思います。
■■■
このあと、記者会見の↓この部分の解説をしようと思いましたが、すでに長文になっているので簡単に書いて終わります。
富士市はすでに職員数が多くて、中核市になって「さらに54人増やす」なんてやめた方が良い、というのが私の意見でした。
類似31都市の中で、3番目に職員数が多いんです。富士市定員適正化計画というPDF資料があるので、興味ある方はご覧ください。

富士市の職員数が多い理由は、記者会見の中にあるように、他の都市より充実した「まちづくりセンター」「自校方式の学校給食」「市立幼稚園」などで、中核市移行はこれとトレードオフだよ、つまりこれを犠牲にするの…?、ということを市長は暗に問いかけているように感じました。

↑どの分野の職員が他の自治体より多いのか。富士市定員適正化計画の中にあります。
それらは、富士市の「良さ」であるので、そう簡単に無くしてはいけないと思います。慎重で丁寧な議論が必要です。
そろそろまとめますが、私は「中核市になろう」「大都市制度の仲間入りだ」「地域のリーダーの都市であろう」とか、そんな背伸びしなくても、肩ひじ張らなくても良いと思っています。
中核市になることのブランド力とか、都市の「格」とかが語られてきましたが、そういうのは違うんじゃないかな、、、私は多くの人との議論の中で感じました。
もっと、さりげなくとも「キラり」と光る、特色のあるまちにしようよ、
このまちに住む幸せがじわりと湧いてくる、そんな温かいまちにしてよ、
そんな意見を頂きました。
そのとおりだと思います。
この中核市議論をステップに、富士市をもっと良いまちにしたいなと、ひしひしと感じています。
まちの未来を、もっともっともっともっと語りたいです。
#nextFUJI
#つぎの富士市をつくる
賢明な判断だと思います。

臨時記者会見(テキストはこちらに載っています)で移行表明しなかった理由が述べられていますが、これらは数年で解決する問題ではないので「検討の継続」とはいうものの実際は「凍結」、国の制度が変わらない限り当面は一般市(施行時特例市)のままでいくことになりそうです。
会見の内容を3行で書くと、こんな感じです
〇5年先まで財政予測をしたら移行費用の年間7億4300万、これが全額自腹(市の単独負担)になっちゃうことが分かった。
〇この7億円余を他で切り詰めようといっても無理な話だった。
〇なにせ来年度でさえ厳しくて、貯金(財政調整基金)を2億円取り崩して帳尻合わせることになる。
記者会見の内容、少し解説します。
中核市に移行するには(いまは県がやっている)保健所を自前で持つことなどが必須で、そのために市職員を54人(そのうち1人は医師)も増やすので、それらの費用に年間7億4300万円くらいかかります。以下、分かりやすくするために「7億円」とします。
県がやっている事務作業を市が引き継ぐのだから、その分の「7億円」はもらえて良さそうなものですが、県からも国からもお金はもらえません。国は、これを地方交付税によって措置するとしています。
この「地方交付税で措置する」というのがポイントで、富士市が中核市になることが難しい理由の本質ですし、なぜ既存の中核市は「進んで中核市になったのか(なれたのか)」という疑問の回答でもあります。
地方交付税とは(wikipedia)、日本全国には税収がいっぱいあるリッチな都市も、少なくて困ってしまう都市もあるので、ある程度均一にしましょう、という制度です。
この地方交付税の交付額がどうやって決まるかというと、、、(ここからちょっと難しいです…)
[基準財政需要額]という、あなたの市の人口くらいなら、最低でもこのくらいお金かかるよね、というのと、
[基準財政収入額]という、それに必要なお金として、あなたの市はこれだけ税収あったよね、というの、
…の差額で決まります。
具体的に富士市はどうかというと(以下、富士市=旧富士市として書きます。旧富士川町分は別計算になっています)
(富士市:平成29年度普通交付税の決定)
〇昨年度の富士市
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
= 約353億 − 約357億円
= △約4億円(平成30年度)
…4億円分収入の方が上回っている → だから交付金ゼロ円
中核市に移行した場合は、移行費用の年間7億円が[基準財政需要額]に足されます。これが「地方交付税によって措置する」の意味です。
〇もしも昨年度、中核市だった場合の富士市
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
= (約353億 + 約7億円) − 約357億円
= 約3億円
…3億円収入が少ない → 交付税が3億円交付される
…年間7億円の中核市移行費用のうち差額の4億円は自腹
そして、市長の記者会見のうちのこの部分の意味ですが、
一般会計中期収支予測(平成31から5年間)によると、富士市は普通交付税の不交付団体となる見通しで、基準財政収入額から基準財政需要額を差し引いた財源超過額は、私の予想を大きく超える年平均11億円余になると予測している。
財源超過額が11億円というのは、
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
= ○○○億円 − ×××億円
= △11億円
ということを表していて、もし中核市になっても、
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
= (○○○億円 + 7億円) − ×××億円
= △4億円
…4億円分収入の方が上回っている → だから交付金ゼロ円
…7億円の中核市移行費用のうち7億円の全部が自腹
ということです。なぜ11億円の財源超過になるかという説明は難しいのですが、決して富士市が絶好調!というワケではなくて、[基準財政需要額]が人口減少とともに減っていくこと、それに比べて[基準財政収入額]については、富士市の特長である固定資産税の多さ(←工場が多い)はすぐに減っていかないこと、ことし10月の消費増税で市の取り分が増えることなど、様々な要因があります。これは都市の立地等のポテンシャルによるところが大きく、人為的なコントロールが難しいものです。
■■■
ややこしい話になってしまいました…。複雑なのはしょうがないんです。富士市がちょうど、ややこしい位置にいるんです。サッカーJリーグでJ1とJ2を行ったり来たりしているチームを、エレベーター・クラブ(wikipedia)と言いますが、富士市はまさに、交付団体と不交付団体を行き来する(日本に数少ない)エレベーター・シティです。だからこその中核市議論の難しさがありました。
そもそも「中核市」、そしてその費用は「交付税で措置する」という国の制度がおかしいんじゃないかなと感じます。財政力が高い市は中核市になりにくく、財政力が低い市は(全額が交付税で措置されるので)中核市に移行しやすい、という矛盾があるように感じます。
これは日本の市の人口のランキングです。(wikipedia)

富士市と人口で同じ規模の八戸市や佐世保市が中核市になっています。こうした自治体は100億円単位で交付税が入ってきて、中核市移行費用は全額交付される、つまり「持ち出しナシ」で中核市になれるんです。
〇北海道函館市(人口・26万5979人)、財政力指数 0.46、普通交付税 304億円 → 中核市
〇青森県八戸市(人口・23万1257人)、財政力指数 0.66、普通交付税 132億円 → 中核市
〇長崎県佐世保市(人口・25万5439人)、財政力指数 0.51、普通交付税 231億円 → 中核市
〇鳥取県鳥取市(人口・19万3717人)、財政力指数 0.52、普通交付税 209億円 → 中核市
一方で富士市より人口が多い市でも、財政力が高い自治体を中心に一般市のままです。
〇千葉県市川市(人口・48万1732人)、財政力指数1.03、普通交付税0円 → 一般市
〇神奈川県藤沢市(人口・42万3894人)、財政力指数1.07、普通交付税0円 → 一般市
〇東京都府中市(人口・26万9061人)、財政力指数1.19、普通交付税0円 → 一般市
富士市と似ているエレベーター・シティは、つくば市や太田市です。中核市移行を検討しましたがいずれも「検討中断」しています。
〇茨城県つくば市(人口・22万6963人)、財政力指数1.00、普通交付税0円 → 一般市
〇群馬県太田市(人口・21万9807人)、財政力指数1.01、普通交付税11億円 → 一般市
こうしてみると、市の「格」として、「 政令市>中核市>一般市 」というワケでは無いなと思います。別に、胸をはって「一般市」でいれば良いんだと思います。
そもそも既存の中核市・全国54市のうち、52市が交付団体(財政力指数が1倍未満)です。例外の2市は、愛知県の豊田市と岡崎市です。
ちなみに豊田市の決算をみてみると(平成29年度)
[基準財政需要額] − [基準財政収入額]
=653億円 − 1100億円
=△447億円
財政力指数1.68。ちょっとレベルが違い過ぎて富士市と比べてもしょうがないんですが、このくらい飛び抜けてリッチだと、保健所運営に数十億円かかっても余裕で捻出できます。
富士市は豊田市ほどの財政にはなれず、数億円のレベルで財政力指数1.0倍近辺をうろうろする時代が今後も続くと思います。
■■■
このあと、記者会見の↓この部分の解説をしようと思いましたが、すでに長文になっているので簡単に書いて終わります。
それにも拘らず、財政運営の実態は厳しい状況にある。これは、富士市の行政サービスの利点でもあることだが、小学校区ごとの地区まちづくりセンターの配置、学校給食の自校直営方式の堅持、公立幼稚園・保育園の数の多さなど、行政コストがかさんでいることも大きな要因である。
富士市はすでに職員数が多くて、中核市になって「さらに54人増やす」なんてやめた方が良い、というのが私の意見でした。
類似31都市の中で、3番目に職員数が多いんです。富士市定員適正化計画というPDF資料があるので、興味ある方はご覧ください。

富士市の職員数が多い理由は、記者会見の中にあるように、他の都市より充実した「まちづくりセンター」「自校方式の学校給食」「市立幼稚園」などで、中核市移行はこれとトレードオフだよ、つまりこれを犠牲にするの…?、ということを市長は暗に問いかけているように感じました。

↑どの分野の職員が他の自治体より多いのか。富士市定員適正化計画の中にあります。
それらは、富士市の「良さ」であるので、そう簡単に無くしてはいけないと思います。慎重で丁寧な議論が必要です。
そろそろまとめますが、私は「中核市になろう」「大都市制度の仲間入りだ」「地域のリーダーの都市であろう」とか、そんな背伸びしなくても、肩ひじ張らなくても良いと思っています。
中核市になることのブランド力とか、都市の「格」とかが語られてきましたが、そういうのは違うんじゃないかな、、、私は多くの人との議論の中で感じました。
もっと、さりげなくとも「キラり」と光る、特色のあるまちにしようよ、
このまちに住む幸せがじわりと湧いてくる、そんな温かいまちにしてよ、
そんな意見を頂きました。
そのとおりだと思います。
この中核市議論をステップに、富士市をもっと良いまちにしたいなと、ひしひしと感じています。
まちの未来を、もっともっともっともっと語りたいです。
#nextFUJI
#つぎの富士市をつくる